深掘り 2026年7月20日
ついに儲かり始めたトークン販売、次はモデル企業の粗利率防衛戦
SecondSource 深掘りレポート #10
訂正と補足、2026 年 10 月 18 日。 第一節「三つの帳簿」の三つ目について、出典を取り違え、まだ起きていないことを起きたように書いていたため、本日、保存ページで直した。本稿は「売上高 1 ドルあたりの計算資源への支出が 0.71 ドルから 0.56 ドルへ」と「損益がほぼトントンから 5.59 億ドルの営業利益に転じた」を CNBC の 5 月 20 日の記事に結びつけていた。その CNBC の記事が確かめているのは第 2 四半期の売上目標 109 億ドルと、達成すれば初の黒字四半期になるという点だけで、二つの数字はどちらも載っていない。二つの数字は同じ日にウォール・ストリート・ジャーナルが先に報じたもので(本紙は The Decoder の引用で読んだ。同紙の原文は有料で、本紙は読めていない)、Reuters は同日、数字が会社から投資家への資金調達資料に出ていたこと、5.59 億ドルは「見込み」の営業利益であることを書いている。5 月時点の見込みとして書き直し、出典を差し替えた。本稿の結論はこの一文に依っておらず、変えていない。
本稿の要点
話は大きな逆転から始まる。2023 年から 2025 年まで、AI の稼ぎはほぼすべてチップ、電力、メモリの売り手が持っていき、モデル企業にとってトークン販売は赤字の商売だった。Anthropic の 2024 年の推論粗利率はマイナス 94% である。2026 年上半期に、この構図がひっくり返った。Anthropic は年換算売上高が 470 億米ドルを超えたと公式に発表し、投資家には創業以来初となる黒字四半期の見通しを示した。そこから新しい論争が始まり、三つの陣営のどこにも第一線の論者が立っている。第一の陣営は、供給不足と品質差がモデル企業に「価値に応じて値付けする」価格決定力を与え、低粗利率の時代は終わったと主張する。第二の陣営は逆に、トークン販売は本質的にコモディティ事業で、高い粗利率はいずれ競争で削られるとみる。第三の陣営は数字そのものを疑い、いまの需要シグナルには水増しが混じっているという。本稿は三つの路線の証拠を、初めて一つの卓に並べる。本紙の判断はこうだ。黒字転換は事実だが、「維持できる」が成り立つのは今のところフラッグシップの階層だけである。勝敗を決めるのは堀(モート)ではなく、二つの時計の競争だ。一つはコモディティ化が価格の階段を上ってくる速さ、もう一つはモデル企業が顧客をワークフローに囲い込む速さである。
この論争が本紙の地図のどこにあるかを示す。
進行中 ?
まず帳簿を整理する:「粗利率の黒字転換」は実は三つの帳簿だ
この論争で最大の落とし穴は「粗利率」という言葉である。出回っている Anthropic の粗利率は 40% から 70% まで幅があるが、実際には三つの別々の帳簿で、対象年も算定基準もそれぞれ違う。
一つ目の帳簿は 2025 年の話で、全コストを含む。The Information の報道によれば、Anthropic は 2025 年通期の粗利率見通しを 50% から約 40% に下方修正した。クラウド上の推論コストが想定より約 23% 高かったためだ(The Information)。二つ目の帳簿は推論サービスだけを数える。SemiAnalysis によれば、推論粗利率は 2025 年の 38% から、2026 年には 60% から 70% のあたりまで上がる(SemiAnalysis)。三つ目は会社が投資家に示したコスト比率で、ウォール・ストリート・ジャーナルが 5 月に報じた。売上高 1 ドルあたりの計算資源への支出は、第 1 四半期の 0.71 ドルから、第 2 四半期見込みの 0.56 ドルに下がる。同じ投資家向けの資料は、その四半期の営業利益を 5.59 億ドルと見込んでいた。どちらも 5 月時点の見込みで、実績ではない。この 15 セントの改善が実現すれば、見込みどおりの黒字転換と同じ時期に起きることになる(The Decoder によるウォール・ストリート・ジャーナルの引用、Reuters)。同四半期の売上高の基数は手元になく、項目ごとに掛け合わせて寄与を割り出すことはできない。この改善が唯一のレバーだったとは言い切れない。
三つの帳簿は時期もずれている。下方修正が先で、対象は 2025 年。改善の数字は後で、対象は 2026 年だ。40% を 65% にぶつけるのも、その逆も、算定基準の取り違えになる。さらに重要なのは、三つの帳簿のどれも監査を経ていないことだ。売上高の側には公式発表の裏付けがある(Anthropic)。粗利率の側はすべて社内資料とアナリストのモデルで、黒字四半期も現時点では見通しであって事実ではない。Anthropic はすでに上場の準備に入っており、上場申請書類がこの算定基準論争の最終審になる。
したがって本稿のいう「黒字転換」の正確な意味はこうなる。売上高の転換には公式の裏付けがある。粗利率の転換は、社内とアナリストの数字が一致しているものの、監査を経ていない改善傾向である。以下のすべての判断は、この土台の上に立つ。
「維持できる」とする路線:供給不足と品質差があれば、価値で値付けできる
何を主張しているか。 この路線の因果の連鎖はこうだ。エージェント型のワークフローによって、トークン一つでこなせる仕事の価値が上がった。数時間走り続けるエージェントのタスクは、実際に支払う混合コストが 100 万トークンあたり約 1 ドルで、引き換えに人件費の時給の数十倍に相当する成果を生む。同時に、ソフトウェアの最適化と新世代チップによって、トークンの生産コストは急落した。需要側の価値が上がり、供給側のコストが崩れれば、その差が粗利になる。しかもこの粗利は値下げ競争で食われない。計算資源が足りないので市場全体を一社で賄える企業はなく、品質差があるのでオープンソースは最も難しい仕事を引き受けられないからだ。フロンティア級の品質を持つモデル企業は、届けた価値に応じて値付けでき、互いに値を下げ合う必要がない。
誰が賭けているか。 SemiAnalysis の Dylan Patel 氏である。同氏は 5 月に "The age of low gross margins for frontier model providers is over" と書き、エージェント需要が市場で取引されるトークン価格を恒久的に押し上げたと判断した(SemiAnalysis)。構造面の補強は二つある。一つは 7 月に出た学術的なシナリオ分析だ。先行企業の償却を終えた旧機群がベルトコンベヤーのようにほぼゼロコストの処理能力を送り込み続けるため、後発企業のコスト差は 3.2 倍から始まって縮まることがないと主張する(arXiv)。もう一つは、上流のボトルネックを独占的に握る NVIDIA と TSMC が、不足に乗じて価格を目いっぱい上げていないことだ。結果として、値付けの余地を下流に譲った形になっている。
証拠の硬さ。 売上高は公式発表の水準にあり、年換算 470 億ドル、半年で五倍だ。支払い意思は行動の水準で示されている。Uber ではエンジニア五千人が通年の AI 予算を 4 か月で使い切り、ヘビーユーザーは一人で月 500〜2,000 ドルを使った(Fortune)。Sierra の共同創業者は、第一線のトップエンジニアがいまや年に 10 万ドルをトークンに使っていると述べた。発言は Sierra 社内のチームの話か顧客の利用かを明示しておらず、ここでは字義どおりに紹介する。
現在の価格もこの路線を支える。7 月 20 日の時点で、フラッグシップ階層で値下げした企業は一社もない。GPT-5.6 のフラッグシップ(Sol 階層)と Claude Opus は、100 万トークンあたり 5 ドルで並ぶ。ただし GPT-5.6 の 5 ドルは現時点では限定テスト向けの階層価格で、市場全体への公式発表ではない。さらに上の階層は、むしろ値上がりしている。コードネーム Mythos の上位階層は、前世代フラッグシップの約五倍の価格を付けた。こちらも階層別・限定テスト層の価格で、市場全体への公式発表ではない。五倍という幅も、公式発表による確認を待っている。Glean 創業者の Arvind Jain 氏の言い方はもっと直接的で、"the last 6 to 9 months" について "every model actually increase[d] their per token price" と述べた(20VC)。単一ソースの発言だが、公開の価格表で確かめられる。
オープンソースの安さも割り引いて見る必要がある。Snowflake が同じシステムで同じデータエンジニアリングのタスクを走らせたところ、オープンソースのモデルは 2 倍のトークンを消費した(X/Ramaswamy)。表示価格の差が 8 倍あっても、請求額の差は 4 倍ほどに縮む。
弱点はどこか。 粗利率の数字は自社の帳簿であり、前節で見たとおりだ。黒字四半期もまだ見通しにとどまる。しかもこれは Anthropic 一社の話である。第三者の推計では、OpenAI の粗利率は逆に 40% から 33% 前後に下がった。ただしこの推計は消費者向けサブスクリプション中心の OpenAI を全コストで見たもので、根拠は弱い。API 中心の Anthropic とは事業構造そのものが比べられず、同じ帳簿どうしの対照ではない。それでも、一社の黒字転換を「時代の終わり」と言うのは、一社の現象を上位グループ全体の事実とみなすことにほかならない。
供給不足という柱にも時計がある。今年納入が約束された計算資源のうち、建設中なのは三分の一だけで、不足は約 7GW に上る。根本原因は、変圧器などの設備の 3〜5 年という納期だ。この点から見ると、不足は恒久的な構造ではなく「実行の遅れ」であり、2027〜2028 年にはサプライチェーンのボトルネックが緩む時期がはっきり見えている(SemiAnalysis)。
この判断を覆す条件。 フラッグシップ階層で実際の値下げが起きることだ。WSJ は 6 月、OpenAI が顧客獲得に備えて大幅な値下げを社内で検討していると報じたが、7 月 20 日の時点ではまだ実行されていない。より近い検証点は、Anthropic が公式に予告した価格の戻り日である。Sonnet 5 の発売時の販促価格は 100 万トークンあたり 2/10 ドルで、8 月 31 日を過ぎても標準価格の 3/15 ドルに戻らなければ、販促価格は事実上の値下げになる。さらに先では、上場書類で開示される監査済みの粗利率が社内の基準を大きく下回れば、黒字転換の筋書き全体を見直すことになる。
「維持できない」とする路線:トークン販売は教科書どおりのコモディティ事業だ
何を主張しているか。 経済学には古い結論がある。差のない商品を二社が売れば、売り手が二社だけでも均衡価格は原価近くまで押し下げられ、先に値上げした側が顧客をすべて失う。この路線は、トークン販売がこの結論のきわめて純粋な現実版だと主張する。Arvind Narayanan 氏の言葉では "an unusually pure version of the conditions that produce the paradox" で、五つの条件がすべてそろっている。モデル間の差がほとんどない。オープンソースのモデルはすでに十分に良い。数百のベンチマークによって、同等性が顧客に透けて見える。各社の資本コストは似通っている。乗り換えはルーターの設定を一行書き換えるだけで済む(Normal Tech)。
歴史の基準率もこの路線に味方する。資本集約的なインフラ六業種を見ると、光ファイバーは七年間の容量急増のあとに 2 兆ドルの時価総額が消え、航空業界は八十年にわたって純利益率 2〜4% にとどまった。逃れたのはクラウドと TSMC だけだ。算術の壁もある。4〜8 兆ドルのインフラ投資を純利益率 5% で五年で回収するには、年 16〜32 兆ドルの売上高が要る。上限の数字は、今日の世界 GDP の四分の一にあたる。
誰が賭けているか。 論者の数が最も多いのはこちらだ。AI Snake Oil の Narayanan 氏が、上の体系的な議論を示した。Benedict Evans 氏は 7 月 9 日の論考で、40〜50% の推論粗利率はまだ訓練コストを含んでいないと指摘し、"analogies don't have predictive value" と書いた。価格決定力が生まれるには、いま見えていない何かが起きる必要があるという(Benedict Evans)。Databricks の Ali Ghodsi 氏は、モデル層の行き着く先は TSMC 型の "very valuable" だが "interchangeable" な存在だと主張する(BG2)。政策研究者の Dean Ball 氏は、フロンティアの上乗せ価格は発表後数か月の狭い窓でしか生き残れず、競争、蒸留、オープンソースが押し戻すと指摘する(Hyperdimensional)。Dwarkesh Patel 氏のブログ賞を受けた Michael Li 氏の版は、いちばん辛辣だ。API は永遠に赤字の鉄道で、儲かるのは鉄道が呼び込む沿線の不動産のほうだという(Dwarkesh blog prize)。
証拠の硬さ。 最も硬い札は歴史の傾きだ。コモディティ化陣営が引く公開の推計によれば、GPT-4 の発表以降、同等能力の価格は約九割下がった。2024 年には知能あたりの単価が一年で九割以上下がり、GPT-4 級の能力は約 15 か月でオープンソースに追いつかれた。これらの推計の引用元リンクは、一件ずつの独立した照合を経ていない。
オープンソースとの差の現状はこうだ。Artificial Analysis の知能指数で、Kimi と Opus の差は過去最小の 9 ポイントまで縮んだ。GLM 5.2 については同じ月に、企業での導入、評論者の実測、推論事業者による独立の再現という、互いに独立した三種類の証拠が「フロンティアの水準を越えた」ことを指している。価格競争も実際に始まった。Google は消費者向け AI サブスクリプションを 7.99 ドルから 4.99 ドルに値下げし、テック媒体はこれをサブスク価格戦争の号砲と呼んだ(TechCrunch)。OpenAI は 7 月に 100 万トークンあたり 1/6 ドルという最安の階層を出し、Anthropic は中位の階層で期間限定の販促を打っている。
弱点はどこか。 この路線は 2025 年に粗利率は上がらないと予言したが、2026 年上半期に Anthropic の推論の経済性は黒字に転じた。少なくとも供給不足と品質差が続く窓の中では、この路線は一局負けている。最も強い理論版には、逃げ道も最初から組み込まれている。歴史上コモディティの罠を抜けた道は "becoming functionally software or achieving market concentration" の二つだと、Narayanan 氏本人が認めている。モデル企業はその一つ目を全力で走っている。Claude Code、企業との複数年契約、会社全体のワークフローに組み込まれるデジタル社員がその例だ。Narayanan 氏によれば、可搬性を意図して組み込まない限り、こうしたデジタル社員は "effectively cannot be fired" で、囲い込みの強さは史上最も粘着性の高い企業ソフトウェアを上回る。言い換えれば、弱気側の最良の理論でさえ、勝敗を決めるのはトークン価格ではなく、囲い込みが形になる速さだと認めている。
この判断を覆す条件。 フラッグシップ階層の価格が守られ続けるか上がり、同時に囲い込みの指標が厚くなり続けることだ。指標とは、複数年契約、コミット済み支出(committed spend)、製品層の売上比率である。これは本紙が設けた 12 か月の観察期間で、再点検の一覧に載せてある。また、同じシステムでの比較で、最も難しい仕事についてオープンソースが品質とトークン効率の両方で劣り続けるなら、「十分に良い」という前提は狭める必要がある。
「数字が水増しされている」とする路線:需要シグナルは見かけほど硬くない
何を主張しているか。 この路線は価格決定力の論争には深入りせず、入力となる数字そのものを疑う。仕組みは二つある。一つ目は補助金的な値付けだ。Bill Gurley 氏の版では、モデル企業はどこもシェア獲得のために値付けしており、原価に基づいていない。このため「供給が需要に追いつかない」というシグナルには補助金の成分が含まれる。資本の窓が閉じて値付けの見直しを迫られれば、需要曲線に空洞が現れるという(BG2)。二つ目は ROI の未精算だ。Chamath Palihapitiya 氏は、自社 CTO の社内実測を紹介した。トークンの総支出(使用量×単価)は "doubling every 45 days" で、下流の生産性は "maybe 5% max" しか上がらず、"we've effectively already asymptoted" だという(All-In)。買い手はいずれ CFO から、EPS は実際どれだけ増えたのかと問われる。
誰が賭けているか。 Gurley 氏のほかに、投資家の Gavin Baker 氏がコスト構造版を示している。自社開発チップを持つ Google は最も安くトークンを生産でき、検索のキャッシュフローで補填しながら、粗利率マイナス 30% で AI を合理的に運営できる。そうしてエコシステム全体の経済的な酸素を、意図して抜き取れるという。
証拠の硬さ。 使い放題のプランは確かに消えた。ChatGPT は 100 ドルと 200 ドルの二階層に改め、利用量に上限を設けた。OpenAI の幹部は、価格は大きく変わらざるをえないと公に述べている。MIT の 2026 年の調査は、企業の AI 試験導入の 95% で損益への影響が見えないとした。この数字は孫引きの単一ソースである。Uber の事例のもう一つの面もここにある。予算を使い切ったあと、Uber の COO はこの支出に見合う価値があったのかを公に問うた(Fortune)。Coinbase の取締役会もトークン支出に反対の立場を示し、ブレーキを踏み始めた。ROI の追及はすでに卓に上っている。予言ではなく、現在進行形の話だ。
弱点はどこか。 「補助金」には別の説明がある。Sourcegraph の CEO の反論によれば、限界費用が低く減価償却が重い事業は、もともとこういう形をしている。「補助金はいつ終わるのか」と問うのは、「航空会社はいつエコノミークラスをやめるのか」と問うようなものだという。この反論は単一ソースで、第三者の確認を経ていない。価格の現状も、補助金論の予測とは逆を向いている。補助金論は価格が下がり続けると予想するが、過去 6〜9 か月でトークン単価の表示価格は下がるどころか上がった。最も決定的なのは伝達の断絶だ。疑問の声は大きいが資金は燃え続けており、ROI の追及はまだどのラボの売上曲線にも表れていない。
この判断を覆す条件。 資本の窓が狭まっても、需要に空洞が現れないことだ。モデル企業二社の上場が自然実験になる。上場後は補助金的な値付けの動機の大半が消える。それでも大口の買い手の契約更新と購入拡大が伸び続ければ、水増し論は格下げになる。
三つの路線を一つの卓に並べる:粗利率は二つの時計の競争だ
ある産業が利益を守れるかどうかについて、教科書の答えはいくつかの圧力を見ることだ。同業者の値下げ、買い手の交渉力、代替品の接近である。そこに 7 月 20 日時点の現状を重ねると、三つの路線はそれぞれ一部分で正しく、しかも一本の価格の階段の上に収まる。
階段の下段はすでに戦場だ。 Google は消費者向けの価格を 37.5% 下げ、OpenAI は 1/6 ドルの低価格階層を出した。Meta は追い上げ層で API の価格競争を仕掛け、Anthropic は中位の階層で期間限定の販促を打っている。コモディティ化は「来るかどうか」の問題ではなく、階段の下段ですでに燃え広がっている。この区間では、コモディティ化の路線が全面的に正しい。
階段の頂上はまだ値上がりしている。 フラッグシップ階層では二社が同じ価格のまま下げておらず、さらに上の階層は値上がりした。トークン単価の表示価格も、全体として過去半年で上向いている。頂上が持ちこたえているのは、三本の柱が同時に立っているからだ。供給不足のため、競合がシェアを奪おうとしても奪う量がなく、値下げしても得るものがない。品質差のため、最も難しい仕事はフロンティア級しか引き受けられず、代替品が入り込めない。買い手の ROI の追及はまだ予算を本格的に止めておらず、交渉力が形になっていない。この区間では、価格決定力の路線が全面的に正しい。
ただし三本の柱は、どれもすでに動いている。 供給不足には時刻表ができた。変圧器の 3〜5 年の納期が、緩和の時期を 2027〜2028 年に置いている。同じころ、品質差は過去最小まで縮み、オープンソースは一部の軸で追いついた。ROI の追及もすでに卓に上っており、まだ売上に伝わっていないだけだ。したがって正しい問いは「コモディティ化が起きるかどうか」ではない。「コモディティ化が階段を上りきる速さは、モデル企業が顧客をワークフローに囲い込む速さを上回るか」である。
この判断基準は本紙が考え出したものではなく、コモディティ化の路線自身の理論から出てくる。差のない商品を売る二社の価格が原価まで落ちる罠(ベルトランの罠)から、歴史上抜け出した例は二種類しかない。ソフトウェア事業に変わるか、独占級の集中に至るかだ。モデル企業がこのことを承知しているのは明らかである。Claude Code、複数年のコミット済み支出、会社全体に組み込まれるデジタル社員は、どれも脱出のための工事だ。粗利率の持続性はトークンの値付けで決まるのではない。脱出工事が完成する速さと、三本の柱が倒れる速さの、どちらが先かで決まる。
本誌の見立て
「フロンティアの高い粗利率は競争で削られない」という主張は、層に分けて読むのが正しい。トークン単位の経済の黒字転換は事実である。売上高の側には公式の裏付けがあり、粗利率の側は社内とアナリストの数字が一致しているが、監査を経ていない改善だ。高い粗利率は今のところフラッグシップのエージェント階層にしかなく、供給不足、品質差、ROI の未精算という三本の柱が支えている。三本とも動いているが、まだどれも倒れていない。今後 12 か月の判定を左右する変数は五つあり、本紙が設けた観察期間として再点検の一覧に載せている。一つ目は、フラッグシップ階層で実際の値下げが起きるかどうか。最も近い検証点は Anthropic の公式予告に基づく 8 月 31 日で、Sonnet 5 の販促価格が標準価格に戻るかどうかを見る。二つ目は、計算資源の納入不足と予約賃料の動き。三つ目は、同じシステムでの比較で、難度の高いタスクについてオープンソースが品質とトークン効率の両方で追いつくかどうか。四つ目は、Anthropic の上場書類に載る監査済みの粗利率が、三つの帳簿のどれに当たるか。五つ目は、トークン需要の年間伸び率が 2 倍を保つかどうかである。2 倍という水準は、前述の arXiv のシナリオ分析を書いた Matsuoka 氏のいう「支払い能力の回廊」(solvency corridor)が示す閾値だ。トークン需要の年間伸び率が約 2 倍を割り込めば、既存の計算資源投資の償還・収益モデルは成り立たなくなる。
これは誰にとって何を意味するか
- AI に資金を配分する投資家: 「モデル企業はついに儲かった」も「トークン販売はコモディティ化する運命にある」も、半分しか正しくない。ラボの売上高は二層に分けて評価できる。API 層はコモディティの論理で割り引き、製品と囲い込みの層はソフトウェアの論理で割り引く。後者に入るのは Claude Code、企業との長期契約、デジタル社員だ。目論見書が出れば、評価の分かれ目は粗利率の算定基準のページと、製品層の売上比率になる。
- 買い手企業の CFO: 階段の下段では低価格の階層どうしが値下げを競い、買い手の交渉力が急速に強まっている。安い階層に回せる仕事が多い企業ほど、その恩恵が大きい。一方で、最も難しい仕事は当面、頂上の上乗せ価格を払わなければ処理できない。Uber の教訓は「使わない」ことではない。トークンの従量課金が社内の利用量ランキング文化とぶつかると、請求額がひとりでに膨らむという点にある。安い階層に回せる仕事を回すコスト規律がなければ、価格を決めるのは社内の文化になる。経路設計とモデル選定の判断は、次項の製品責任者の領分だ。
- AI 製品の責任者(プロダクトマネージャー): 経路設計とモデル選定は、この職の判断になる。中身は三つある。エージェント利用量のダッシュボード、難度に応じて仕事を階層に分けて対応する価格帯のモデルに回す設計、自社製品の価格をフラッグシップ階層の値上げに合わせるかどうかだ。いずれも製品の意思決定で、CFO の日常業務には入らない。
- クラウド事業者と計算資源のサプライチェーン: 頂上の粗利率を支える一本目の柱は供給不足で、その根本原因は変圧器や電力などの納入のボトルネックにある。この層の納入速度が、モデル企業の粗利率を測るストップウォッチになる。納入が速いほど、コモディティ化が階段を上る速度も上がる。二つは同じ事柄の表と裏だ。
- モデル企業の戦略を追う観察者: 見る数字は二つで足りる。一つはフラッグシップの表示価格で、三本の柱が倒れたかどうかを測る。もう一つはコミット済み支出と製品層の売上比率で、脱出工事が完成したかどうかを測る。ほかの数字はどれも、この二つの注釈にすぎない。
結びに、もう一度この樹を見る。本稿が更新したのは分岐の読み方だ。三つの路線を「三択」から「一本の価格の階段の上にある三区間の事実」に改め、確かめられる五つの判定変数と、二つの短期の検証点を付けた。
進行中 ?
本記事は日本語版・英語版・中国語版と同一の調査と判断にもとづいて書かれています。出典にはリンクを付け、原文書と報道を区別し、確かめられなかった点を明記しています。
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