SecondSourceAI産業の「判断」を届ける夕刊ブリーフ

深掘り 「フロンティアのペース配分」をめぐる三組の数字は、どれも速度ではない。そして三組とも、社内に入れる者にしか読めない · 2026年9月18日

「フロンティアのペース配分」をめぐる三組の数字は、どれも速度ではない。そして三組とも、社内に入れる者にしか読めない

深掘りレポート第 35 回。今回攻め直すのは、本紙が三日前に書き留めた読みである。

本稿の要点

九月十五日、本紙は一つの読みを書き留めた。Anthropic の最高経営責任者は九月十二日、「フロンティアのペース配分」を打ち出した。フロンティアモデルの開発速度を業界として意図的に調整しよう、という提案だ。その読みによれば、この約束のうち外から確かめられるのは誰が中に入って見られるかであって、どれだけの速さで進むかではない。提案はてこを開発側の投入、つまり訓練用コンピュート、訓練のやり方、AI による AI の改良に置いたが、どの当事者も速度を示していない。本稿はこの読みを分解して検証し直した。結論は三層に分かれる。

第一層。「どの当事者も数字を示していない」は範囲を狭める必要がある。 数字は実は三組あり、うち二組は提案より前に公開されていた。ある研究団体は八月五日、フロンティア企業はコンピュートの少なくとも七割を外部顧客向けのサービスに、二割五分を公開の安全研究に回し、AI の研究開発に使うモデルは九か月以上前に訓練を終えたものに限るべきだと書いた。OpenAI は九月六日、自社の強化学習(事前学習のあとで能力を引き上げる主要な段階)に割り当てた訓練用コンピュートの配分がどう変わったかを公表した。ある下院議員は提案のあと、新聞紙上で三十日間の安全のための停止を呼びかけた。正確にはこう言うべきだ。速度を示したラボも協定も一つもない。いま出回っている数字はすべてコンピュートの配分比率か停止日数であり、「能力は年に最大どれだけ進んでよいか」を示す数字は一つもない。

第二層。「アクセス」と「速度」は別々の話ではない。本稿がその読みに加える最大の書き換えはここにある。 三組の数字には共通点がある。どれも、確かめるには誰かが社内に入らなければならない。研究団体の原文自体が、これらの比率について "These can be enforced by third-party auditors with extensive internal access in AI companies to check the compute allocations." と書いている。OpenAI の配分図はもっとはっきりしている。八月七日以降、制限を受けた旗艦モデル系統のコンピュートは 59.2% 減った。同じ週にほかのモデル系統は 17.2% 増え、旗艦系統の減少分の八割五分を埋め合わせた。分析対象となった強化学習コンピュートの総量は "largely unchanged" だったという。一つのモデル系統を止めるブレーキは、会社全体に換算するとおよそ 2% しか効かない。しかも移された分のコンピュートがいま何を動かしているのか、外からは見えない。アクセス権は速度の代わりではない。速度を測る唯一の物差しなのだ。その読みはこれを「前者は検証できるが後者はできない」と切り分けたが、切る場所を間違えていた。

第三層。誰も速度を書かない理由としては、「まだ考えが固まっていない」より具体的なものがありうる。書けば、同業者どうしで生産制限を申し合わせることに最も近くなるのだ。 反トラスト分野のアドバイザーは、ワシントン・ポストのニュースレターではっきりこう述べている。"If they agree to restrict output, that's a pretty classic antitrust violation." 米司法省の高官が九月十七日に示した姿勢も、業界がサイバーセキュリティと製品安全のパラメータで協力する余地を広げるものであって、開発速度には触れていない。上院で超党派が提出したセーフハーバー法案は、ラボにペース配分計画を事前に司法長官に通知するよう求めている。法的には、アクセス権と安全基準は一緒に話し合えるが、速度は話し合えない。

本稿は六段で進む。

① まず数字を照合する。三組の数字はそれぞれ何を測り、どれが速度ではないのか。

② OpenAI の配分図を読む。一つの系統を止めると、コンピュートは隣に流れる。

③ 提案の三本のてこを一本ずつ広げ、外からそれぞれどこまで見えるかを確かめる。

④ なぜ誰も速度を書かないのか。反トラスト法が「速度」と「基準」を二種類の法的リスクに分けている。

⑤ アクセス権そのものも、六日たったいまなお約束のままだ。誰が、いつ、何人で、何を見られるのか、どれも公表されていない。

⑥ だからどの指標を見るべきか。そして何が本稿を覆すか。

この読みは九月十五日の夕刊に載った。本稿はその日より何を上乗せしたのか。三つとも指し示せる。第一に、「誰も数字を示していない」を攻めてみたところ、持ちこたえなかった。 数字は三組見つかった。なかでも OpenAI の配分データは提案より六日早く、同社自身の公式ブログに載っていたのに、本紙は当時それを長期追跡の記録に加えていなかった。第二に、「速度」の分母を分解した。 同じ配分図でも、旗艦モデル系統を分母にすれば約六割の減少、分析対象の強化学習コンピュート全体を分母にすれば約 2% の減少になる。速度の分母が定義されない限り、「どれだけ遅くなったか」はいつでも二通りの数字で語れてしまう。第三に、この判断を覆す条件を、そのまま答え合わせできる形で書いた。 どこか一社のラボが会社全体を分母とするコンピュート配分比率を公表し、名前の出た外部の監査人がそれに署名すれば、「分母を読めるのは中に入れる者だけ」という本稿の結論は誤りとなる。

監視可能性はただで付いてくる、と見なされていた時期(2025-03~2026-06)モデルは自分の思考の連鎖を制御できない、だから別のモデルに読ませれば悪い意図を捕まえられる;発表元の自社研究二本はこれを「現時点で主要なリスクではない」と測り、同じ時期にこれがエージェントの不正を捕まえる業界の主力手段になった
判断を支える物差しの交代(2026-09)旗艦一世代のうちに、回避を指示された条件での検出率がほぼ全数捕捉から一桁台に落ちた;リリース文書には今も「思考の連鎖の監視」とあるが、実際に裏付けに使われているのは、より多くを見る別の監視に替わっていた——交代は宣言されず、新しい物差しには敵対条件下の数値がない

進行中 ?

経路A能力跳躍論(発表元自身の立場):監視可能性が落ちたのは知能が跳躍したからであり、思考の連鎖に最適化圧力をかけたからでも、アーキテクチャを替えたからでもない
経路Bアーキテクチャ論(外部の批判者):再帰や潜在空間での深い計算が、読めるトークンの外に計算を移しており、業界に数少ないレッドラインの一つを踏んでいる
経路Cアーキテクチャ無罪論(当事者の技術責任者と、最も技術に明るい独立評論家が同じ側):今世代のフロンティアモデルでも計算グラフの深さは四世代前の旗艦の二倍以内に収まり、層の再利用そのものは思考の連鎖を隠さない
経路D計測器交代論(本紙の九月五日の読み):原因をめぐる論争はいまは決着がつかず、しかも判断を支えていない;決着がつくのは、同じ文書のなかで判断を支える物差しが替わったことだ——劣化したのは思考の連鎖だけを読む監視器で、実際に裏付けているのはより多くを見る全文脈監視器であり、後者の数値はすべて、モデルが回避を指示されていない条件で取られている

上の図は、「AI 企業が自社は安全だと言うとき、それを誰が検証しているのか」という本紙の追跡テーマの地図である。九月初めに扱ったのは、モデルの思考を監視する物差しを誰が測るかだった。本稿はその一段上を扱う。会社がペースを落としたと言うとき、誰が、どの分母で測るのか。

ここまでしか読まないなら:今後「あるラボがペースをどれだけ落とした」という話を目にしたら、まず三つを問えばよい。分母は一つのモデル系統か、会社全体か。数字は誰が測ったか。測った人は中に入ったことがあるか。いまの時点での答えは順に、たいていは一つのモデル系統、会社自身、入っていない、である。

一、まず数字を照合する:三組あるが、どれも速度ではない

九月十五日の読みの第一文は「どの当事者も速度の数字を示していない」だった。根拠は二つあった。提案の原文には、たしかに数字が一つもない。そして、あるベンチャーキャピタルのアナリストが九月十四日に五つの陣営を棚卸しし、どの陣営も帰結には値札を付けたが "none named a speed" と書いていた。そのアナリストは、間隔は六十日なのか、百六十日なのか、六百日なのかと問い返してもいる。

二つの根拠はどちらも成り立つ。ただ、あの一文が言うより範囲は狭い。前後一週間ずつ探すと、数字は三組見つかる。

一組目は、研究団体が示したコンピュートの比率(八月五日)。 AI の発展予測を手がける AI Futures Project が、研究員 Eli Lifland の署名で、米国がフロンティアのペースをどう配分すべきかを論じる記事を出した。選択肢は四つあり、二つ目がそのまま数字を示している。フロンティア企業はコンピュートの少なくとも約七割を外部顧客向けの推論に、少なくとも二割五分を結果をすべて公開する安全研究に使うべきだ、というものだ。三つ目の選択肢は、AI の研究開発を担う、あるいは支援するモデルを、少なくとも九か月前に訓練を終えたものに限るというもの。記事はこれらの比率をもとに、能力の進展にどれだけ響くかまで試算している。

二組目は、OpenAI 自身が出したコンピュート配分のデータ(九月六日)。 次節で詳しく読む。

三組目は、ある下院議員が求めた停止日数(提案のあと)。 カリフォルニア州選出の下院議員 George Whitesides はソーシャルメディアにこう書いた。"I'm calling for a 30-day safety stand-down at the leading AI labs to establish clear red lines and meaningful safeguards before they keep pushing forward." 本稿が読んだのは評論家 Zvi による転載で、Whitesides 本人がワシントン・ポストに寄せた原文は読めていない。

三組を並べてみると、どれも「能力が前に進む速度」を測っていない。

数字出したのは誰か何を測っているか確かめるには何が見えなければならないか
外部推論に七割、安全研究に二割五分、九か月研究団体、提案の一か月前コンピュートの分け方、研究開発に使うモデルの古さ社内のコンピュート一つひとつが実際に何を動かしているか
旗艦系統 59.2% 減、ほかの系統 17.2% 増OpenAI 自身、提案の六日前強化学習コンピュートのモデル系統別の配分同上。加えて「ほかの系統」とは具体的にどのモデルか
三十日一人の下院議員どれだけ止めるか会社が本当に止めたか、何を止めたか

だから、あの一文の正しい形はこうなる。速度を示したラボも協定も一つもない。外に出回っている数字はすべて配分比率と停止日数である。 これは言い回しの手直しにとどまらない。比率と日数には、速度にない性質が一つある。反事実を必要としないのだ。「七割のコンピュートが外部推論に使われたか」には正解がある。「能力の曲線が本来より遅くなったか」には正解がない。本来どれだけ速かったのか、誰にも分からないからだ。

この後者の点は、その読み自身がすでに押さえていた。本稿で検証し直しても変わらず成り立つ。ある元 OpenAI 研究員は、一年後に能力のトレンドラインがはっきり下向きに曲がっていなければ、おそらく騙されたということだと主張する。これに対してある Anthropic 社員は、ペース配分をしない場合の既定路線は AI の自己改良で傾きが急に立ち上がることかもしれず、傾きを変えずに保つこと自体が強いペース配分の結果だと応じた。研究者の Noam Brown が今週のインタビューで示した幅はさらに広い。AI が自ら研究を担うようになれば、進展は三倍速くなるかもしれないし、五割速くなるだけかもしれないし、十倍速くなるかもしれないという。既定の速度そのものについて、五割増しから十倍までどの見方にも筋が通るのなら、能力の曲線を検収の条件に据えた途端、どちらの側も自分が正しいと言い張れる。

二、唯一のコンピュート配分図:一つの系統を止めると、八割五分は隣に流れる

前節で後回しにした二組目の数字が、実は最も多くを語る。

OpenAI は九月六日、"Research acceleration: The view inside OpenAI" と題する記事を公開した。大半は、自社の研究者が coding agent をどう使っているかの話だ。coding agent とは、複数の手順を自分で続けて実行し、プログラムを書いては走らせる AI プログラムを指す。研究者一人あたりの利用額は、中央値で一日 600 米ドルを超える推論、上位一割では一日 7,000 ドルを超える。第四節の見出しは "Pacing model development" で、Anthropic の CEO の記事より六日早く同じ言葉を使っていた。

その節には強化学習の訓練用コンピュートの配分図が載っており、モデルの種類ごとに色分けされている。本文が述べていることは三つある。

この三つの百分率は紙と鉛筆で検算でき、検算の結果は原文より多くを語る。Astra 級にもともと割り当てられていた量を A、ほかの種類を O とする。

同じ図、同じ出来事から、見出しは二通り書ける。「OpenAI、旗艦モデルの訓練用コンピュートを六割近く削減」と、「OpenAI の強化学習コンピュート総量はほぼ横ばい」。どちらも正しい。違うのは分母だけだ。その読みが言う「速度がない」の本当の姿はここにある。欠けているのは数字一つではない。分母の定義が欠けているのだ。

この図には、外から読めない部分がもう一つある。この件を長く追ってきたあるポッドキャストのホストは図を見て、総量のレベルでは青い部分に何が入っているのか分からないと指摘した。青は図の「Astra 以外」の区分だ。移されたコンピュートがどのモデルの訓練に回ったのか、そのモデルがフロンティアにどれほど近いのか、図にも本文にも書かれていない。この問いに答えられるのは、社内のジョブのスケジュール記録を見られる者だけである。

読みすぎを防ぐため、二点をはっきりさせておく。第一に、これは会社自身が出した数値で、第三者の署名はない。ただし、自社にとってあまり見栄えのよくない数値でもある。会社は「コンピュートがほかに移った」ことを自ら書き、隠すどころか政策提言の材料にしている。第二に、対象は強化学習の部分だけ、それもその数週間だけで、会社全体のコンピュートではない。

三、三本のてこは、外からそれぞれどこまで見えるか

配分図が示したのは、分母が社内にあるということだった。では、提案が挙げたてこは、それぞれどこまで外から見えるのか。

提案が挙げたペース配分のてこは三つある。訓練用コンピュート、訓練のやり方、AI による AI の改良だ。その読みの論証は、てこがすべて開発側にあるから外からは速度が見えない、というものだった。分解してみると、三本のてこの見え方は同じではない。その違い自体が答えになっている。

訓練用コンピュート:外から総量は見えるが、用途は見えない。 三本のうちで最も「物理的」な一本だ。チップは買わねばならず、電力は引かねばならず、データセンターは建てねばならない。契約はよく報じられ、研究機関も長年、公開資料から各モデルの訓練用コンピュートを推計してきた。今週、提案する側を問い詰めるのに最もよく使われた数字もこの種類に入る。九月七日の報道によれば、Anthropic が十一か月のあいだに結んだコンピュート契約の価値は、最大で 5,170 億ドルにのぼる。本稿が読んだのは複数メディアによる引用で、元の報道は有料記事のため読めていない。ただ、この報道を引いた複数メディアの整理によれば、この数字にはオプション、意向書、枠組み合意が含まれ、確定した支出ではない。同じ整理は対応する電力規模を少なくとも 14.8 ギガワットとしているが、換算方法は公開されておらず、本稿は独自に検算していない。より根本的な問題は、総量からは、それが訓練なのか、顧客向けの推論なのか、研究者が一日数千ドル使うエージェントなのかが区別できないことだ。前節の OpenAI の図がすでに示したとおり、総量が変わらなくても、その下の配分は大きく変わりうる。研究団体の「外部推論に七割」という案が確かめようとしているのは、まさにこの内訳である。外には総量があるが、内訳はない。

訓練のやり方:中からしか見えない。 一回の訓練でどんな環境や報酬を使ったのか、モデルに悪い癖をつけかねない素材に触れさせたのか。外にはどんな代わりの指標もない。OpenAI の八月の停止がその例だ。止めたのは配備予定モデルの強化学習で、同じ時期にほかの形の訓練が走っていたかどうかは、外の人間には会社の説明に頼る以外に知りようがない。

AI による AI の改良:中からしか見えず、しかも規模が大きくなりつつある。 前節の記事そのものが、このてこの社内データだった。研究者のエージェント利用額の中央値、上位一割の水準、成功率、一日あたりの質問数。これらを生み出せるのは会社だけだ。研究団体の「研究開発には九か月前のモデルしか使えない」という案も、確かめるには社内記録を見るしかない。

三本を並べると、一本は外に総量があって内訳がなく、残る二本は外に何もない。したがって、ペース配分を開発側の投入に賭ける限り、「速度」は必ず誰かが中に入って読み取らなければならない。 研究団体の書き方が最も直接的で、自らの提案するコンピュート比率は "enforced by third-party auditors with extensive internal access in AI companies" によって担保されるとしている。Anthropic の CEO が提案した組み込み型の評価者にも、完成したモデルを見るだけでなく、訓練パイプラインとそのプロセスを評価する権限が含まれる。研究団体は監査人と呼び、Anthropic の提案は組み込み型評価者と呼ぶ。どちらも社内に入って調べることを許された外部の人を指しており、本稿では以下、両者をまとめて評価者と呼ぶ。

これが、本稿がその読みに加える最大の書き換えである。その読みは約束を「検証できるアクセス」と「検証できない速度」の二つに割った。実際には、両者は一つのものの両端にある。アクセス権は開発側の速度を測るのに使える唯一の計測器であり、いまのところ、この計測器がどの数値を読むのかはまだ指定されていない。 提案は計測器を渡したが、目盛りは渡さなかった。

四、なぜ誰も速度を書かないのか:書けば生産制限の申し合わせに最も近くなる

目盛りが決まっていないのは、単なる手落ちなのか。

「数字がない」ことの説明として最もよくあるのは、まだ考えが固まっていないか、わざとぼかしているか、の二つだ。今週の材料が指しているのは、もっと具体的な理由である。名前の付いた速度は、米国法のうえでは、同業者どうしが生産制限を申し合わせることに最も近い。

上院議員 Jim Banks の公式サイトは、ワシントン・ポストの九月十五日付テック政策ニュースレターを転載している。見出しは、ペース配分に法的な盾を与えるという趣旨だ。そのなかの二つの発言が、問題をはっきりさせている。反トラスト分野のアドバイザー Doug Calidas は、ラボどうしが集まって、できるだけ速く開発するのではなくフロンティアのペースを配分しようと申し合わせる場面を想定し、こう述べた。"If they agree to restrict output, that's a pretty classic antitrust violation. Whether or not it falls under one of these exceptions for standards is an open question." ある業界団体の幹部は、提案にあるような協力は現在の協力の範囲を超えるものでさえあり、明確なセーフハーバーが必要だと述べた。

政府の側では、同じ週に向きの異なる三つの動きが出た。

三つを合わせると、九月十五日の読みが挙げた二つ目の指標、つまり「反トラスト上の取り決めが出てくるか」の見通しが書き換わる。その二日後、本紙は、大統領が存亡リスクをでっち上げだと呼び、副大統領が業界の規制要求をトロイの木馬になぞらえたことを受けて、この指標が現れる確率を引き下げていた。今週の材料は、政府が一枚岩ではないことを示している。司法省は安全パラメータでの協力に好意的な姿勢を見せ、連邦取引委員会は反トラストの適用除外を強く警戒している。より重要なのは、司法省が緩めた範囲が安全基準とサイバーセキュリティであって、速度ではない点だ。

第三節とこの節を重ねると、一つの構造が浮かび上がる。

調整する対象法的リスク確かめるのに何が要るか
アクセス権、評価基準、事故報告低い。司法省はすでに好意的な姿勢を見せた評価者の報告書
コンピュートの配分比率中程度。基準にも生産制限にも見え、法的には答えの出ていない問題中に入れる評価者
能力が前に進む速度高い。「生産制限の申し合わせ」に最も近い既定の速度が誰にも分からず、確かめようがない

「速度」に近づくほど、法的リスクは高まり、確かめるのも難しくなる。誰かに悪意がある必要はない。ある会社の法務担当が上の "classic antitrust violation" という一言を読んでいれば、それだけで CEO に記事のなかで数字を書かせることはない。

「先に物差しを作り、量はあとで決める」がこのテーマの本来の順序だったことを示す、もっと早い証拠もある。七月二十八日、フロンティアラボの社員千人以上が個人の立場で、同じ名前を冠した公開書簡に連名で署名した。求めたのはただ一つ、フロンティアのペースを意図的に配分するのに必要な技術とガバナンスの道具を開発するよう、政府が支えることだった。理由として書簡は、世界はいまその道具を持っていないとしている(原文では "lacks the technical and governance tools")。元 OpenAI 政策研究責任者の Miles Brundage は八月二十一日の寄稿で "Auditing of each company is a key part of enforcing a slowdown" と書き、減速を検証するのに必要な技術に投資することを、先に着手できるもう一つの事柄に挙げた。九月十二日の提案は、本質的にはこの系譜の次の一歩にあたる。まず評価者を中に入れる、という一歩だ。この前史から見れば、「速度の数字がない」のは提案の抜け穴ではない。提案自身が組んだ順序なのだ。

五、アクセス権そのものも、六日たってなお約束のままだ

アクセス権が速度を測る唯一の物差しなら、その物差しはいまどこにあるのか。答えは、まだ約束の段階にある。

TechCrunch は九月十六日、両社に問い合わせた結果をこう書いた。"Neither company has shared which evaluators they'll work with, when they will be embedded, how many they'll bring on, exactly what systems and information they will be able to access or what can be disclosed to the public, despite repeated questions from TechCrunch." 同じ記事は、この物差しの価値を割り引く材料を三つ記録している。

OpenAI の側では、CEO が九月十二日、自社も同じことをする、近くさらに話せることがあると述べた。九月十八日の時点で、本稿はそれが実行された形跡を見つけられていない。同社が九月十六日に公表したのは別のものだった。モデルが意図から外れた振る舞いをしたときの開示の枠組みで、開示するかどうかは社内の安全諮問グループが決め、外部の審査は入らない。

評価者をどこから連れてくるのかも、すでに知られた問題である。提案が例に挙げたのは METR で、フロンティアモデルの能力とリスクの評価を専門とする研究機関だ。今週、METR 一社では到底手が回らないと書いた評論家がいた一方、あれはシリコンバレーの身内だと言い切る人もいた。本紙が以前から追っている読みが、ちょうどここに重なる。調べる側と調べられる側が、同じ人材プールから来ているという読みだ。

この節は、九月十五日の読みが挙げた一つ目の指標を動かさない。会社の手が入っていない評価者の最初の公開報告書、そしてそこに「アクセスを拒否された」という段落があるかどうか。これが今も、最も早く現れ、最も混じり気のない指標である。本稿が付け加えるのは一点だけだ。その報告書が速度に答えようとするなら、コンピュート配分の数字を書き込まなければならない。 そうでなければ、確かめられるのは安全面の実務だけで、「ペースを落としたかどうか」は確かめられない。

六、今後「ペース配分」をどう読むか

ここまでの五節を一つにまとめ、本紙の立ち位置を示す。

本誌の見立て

「フロンティアのペース配分」という約束のなかで、アクセス権と速度は、検証できる半分とできない半分ではない。同じ一つのものの両端である。ペース配分を開発側の投入に賭ける限り、外から読めるのは契約と電力の総量だけだ。速度を実際に決めるのは分母——コンピュートを訓練、顧客向けのサービス、社内の研究開発にどう分けるか——であり、この分母は中に入れる者にしか読めない。いま出回っている数字はすべて配分比率と停止日数で、速度を示すものは一つもない。実際のデータは OpenAI 自身が描いた一枚だけで、そこには、一つのモデル系統を止めるとコンピュートの八割五分が隣の系統に流れ、総量は約 2% しか減らないことが示されている。誰も速度を書かないのは、道具が足りないからだけではない。名前の付いた速度は米国法のうえで同業者による生産制限の申し合わせに最も近く、今週政府が見せた好意は安全基準までで、速度には及ばないからでもある。したがって今後「ペースを落としたかどうか」を判断するとき、本紙は能力の曲線を見ない。追うのは三つの段階だけだ。まず、名前の出た評価者がいること。次に、その評価者の最初の報告書にコンピュート配分の数字が書かれていること。最後に、その数字の分母が一つのモデル系統なのか会社全体なのかを見る。

これは誰にとって何を意味するか

この判断を覆す条件

1. いずれかのフロンティアラボが、会社全体を分母とするコンピュート配分比率(訓練、外部推論、社内の研究開発の三分割)を公表し、しかも名前の出た外部の評価者がそれに署名する。 その日、「分母を読めるのは中に入れる者だけ」という本稿の結論は無効となり、速度は外から計算できるものになる。観察期間(本紙が自ら設定)は 2027 年 3 月 15 日までとし、九月十五日の読みが定めた六か月後の答え合わせの日(検証期日)にそろえる。その日には、評価者の最初の公開報告書が存在するかどうかを見る。

2. 公開データからの推計で、訓練と推論を切り分けられる。 どこかの研究機関が、公開された契約、電力、チップのデータだけからあるラボの訓練と推論のコンピュート内訳を推計し、それがのちに会社の数字によって妥当な範囲に収まっていたと確かめられた場合。第三節の「外には総量があるが、内訳はない」は撤回する。

3. あるペース配分協定が名前の付いた速度または総量の上限を書き込み、反トラスト上のセーフハーバーも政府の承認も得ないまま実行される。 第四節の「速度を書けば生産制限の申し合わせになるので、誰も書かない」という仕組みは誤りとなり、誰も書かない理由は別にあることになる。

4. OpenAI が「Astra 以外」の区分の構成を公表し、そこにフロンティアに近いモデルが一つも含まれていない。 第二節の「移されたコンピュートは外から読めない」という点は、OpenAI については成り立たなくなる。

5. 評価者の最初の公開報告書が現れ、そこにコンピュート配分の数字が書かれている。 これは本稿を覆すものではなく、本稿が起こると見込んでいることだ。現れた報告書の分母が一つのモデル系統であれば、本稿第二節の警告が役に立つ。


本記事は日本語版・英語版・中国語版と同一の調査と判断にもとづいて書かれており、すべての主張は一次資料へのリンクを備えています。

あなたの会社が付き合っているモデル供給元は、名前の出た評価者を一人でも挙げられるでしょうか。答えが分かったら、ひと言お知らせください。今後の検証に使わせていただきます。