夕刊 2026年7月14日
Nvidia の売れ残り買取義務、SEC 書類に明記
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今号の要点
1. GPU を貸し出す事業者 CoreWeave は 2025 年 9 月 9 日、米証券取引委員会(SEC)に臨時報告書 8-K を出した。この書類によれば、CoreWeave の顧客が使い切らなかった容量を Nvidia が 2032 年 4 月まで買い取る義務を負う。この話はもともとベンチャー投資家 Bill Gurley 氏がポッドキャストで紹介したもので、書類の原文と一致した。注文の初期価値 US$6.3B は購入量の保証ではない。義務は CoreWeave がサービス提供の条件を満たすことが前提である。契約違反は 30 日の通知の後に、破産は手続が 90 日たっても取り消されないときに、相手方が契約を終了できる。
2. Exponential View は、GPU 賃料の指数を出す Silicon Data の数字を引いて、Nvidia の前世代旗艦 GPU である H100 について、一年契約の時間単価が 2025 年 10 月に付けた底値約 US$1.70 から約 US$2.35 へ、約 38% 上がったと伝えた。同じ号では、即時利用の価格は同じ期間に約 10% しか上がっていない。数字の出典はいまのところこの一本だけである。
3. Apple は 7 月 10 日、OpenAI がハードウェアの営業秘密を盗んだとしてカリフォルニア州北部の連邦地裁に提訴した。訴状の指摘はすべて Apple 側の主張で、OpenAI はまだ応訴しておらず、判決もない。
本号の材料は、本紙の 2026-07-14 付研究日報である。過去 24 時間の新しい出来事と照合の作業に、5〜6 月の素材をまとめて補った分を加え、補った分には項ごとに元の日付を記した。補った素材の多くは Gary Marcus 氏一人の文章である。同氏は長く AI に懐疑的な論者で、自説に合う材料を選ぶ傾向がある。同氏を引いた項では一つずつ確認の状態を記し、独立したソースと照らした。本号の本文では、リンクをたどれる外部のソースを 20 件使った。
今日の中核
1. [今週] Apple が OpenAI を営業秘密の窃取で提訴、争点はハードウェア
なぜ重要か: 本紙の推論:AI 大手と既存のプラットフォーム企業の間で、初めての営業秘密の大型訴訟である。Apple は、人材の流出を報奨金で防ぐ守りから、訴訟という攻めに移った。判決はまだ出ていない。
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7 月 10 日、Apple はカリフォルニア州北部の連邦地裁に訴状を出し、OpenAI がハードウェアの営業秘密を盗んだと訴えた(CNBC, 2026-07-10)。
訴状が挙げる具体的な行為は二つある。一つ目は、OpenAI のハードウェア責任者 Tang Tan 氏に関するものだ。元 Apple 副社長の同氏は、まだ Apple に勤める応募者に、面接で実際の部品を持参して見せるよう求めたとされる。二つ目は、Apple に 8 年勤めたエンジニア Chang Liu 氏に関するものだ。同氏は退職時に会社のノートパソコンを返さず、そのパソコンで機密文書をダウンロードしたとされる。
両社の関係は二年で反転した。2024 年、両社は ChatGPT を iPhone に組み込む提携を大々的に発表した。その後 OpenAI は、Jony Ive 氏のハードウェア新興企業 io Products を US$6.4B で買収し、ハードウェアに踏み込んだ。同じ時期、Apple の人材は OpenAI へ流れ続け、両社の関係は冷えた。
この訴訟は、本紙が追う二本の線に直接つながる。一本は OpenAI が自社の端末に賭けていることだ。もう一本は、上に書いた Apple の姿勢の変化である。
まだ言えないこと: 訴状の指摘はすべて Apple の主張で、裁判所の判断はない
検証: 出来事そのものは、CNBC、Bloomberg、Washington Post、Fortune など複数の主要媒体が 7 月 10 日に報じており、互いに裏付けがある。指摘の中身は Apple の一方的な主張である。本号の時点(7 月 14 日)で OpenAI は応訴しておらず、裁判所の判決もない。報道によれば、OpenAI のハードウェアの発表日程は変わっていない。
2. [今週] Nvidia H100 の一年契約の賃料は底から約 38% 上がったが、出典は一本だけ
なぜ重要か: 本紙の推論:H100 の賃料の向きは、GPU の需要が弱まっていないことを示す。ただし SpaceX の上場申請書類には三年契約を 90 日で解約できる条項があり、契約の年数だけでは需要の確かさは測れない。
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Azeem Azhar 氏が書くテクノロジー分析のニュースレター Exponential View は 7 月 12 日、計算資源市場の数字を二つ挙げた(EV #592)。一つ目は H100 の賃料である。Nvidia の前世代旗艦チップ H100 について、一年契約の時間単価は 2025 年 10 月の底(約 US$1.70)から約 US$2.35 へ、約 38% 上がった。
もう一つの数字が、長期契約という指標を割り引く理由になる。SpaceX の上場申請書類によれば、SpaceX が結んだ計算資源の長期契約は三年だが、90 日で解約できる条項が付く。帳簿上は三年の約束でも、実際に縛るのは 90 日だけかもしれない。
賃料の数字は、GPU 賃料の指数を出す Silicon Data からの引用である。GPU 賃料という一つの指標から言えるのはここまでだ。全体の意味は、次の中核 3 の、Nvidia による売れ残りの買い取り義務と合わせて読む。
まだ言えないこと: 二つの数字はどちらも Exponential View 一本の引用で、二つ目の出典がない
検証: 二つの数字の出典はいまのところ Exponential View 一本だけで、どちらも引用である。賃料は Silicon Data の投稿から引かれている。SpaceX の条項は SEC への一次の提出書類にあるが、条項の文言は原文と一字一句は照合されていない。賃料の方向は参考になるが、水準は Silicon Data 一社の値である。
3. [証拠更新] Nvidia が CoreWeave の売れ残り容量を買い取る義務は、SEC への提出書類に明記されていた
なぜ重要か: 本紙の推論:CoreWeave の売上を需要の指標に使う投資家は、Nvidia の買い取りが発動した分を本当の需要と区別できない。
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CoreWeave は GPU の計算資源を貸し出す事業者である。同社が 2025 年 9 月 9 日に SEC へ出した 8-K(重要な出来事を知らせる臨時報告書)によれば、CoreWeave の顧客がデータセンターの容量を使い切らなかったとき、Nvidia はその売れ残りを買い取る義務を負う。期限は 2032 年 4 月で、注文の初期価値は US$6.3B である(SEC 8-K 原文)。
この話はもともと、Benchmark のパートナーでベンチャー投資家の Bill Gurley 氏が、2025 年 10 月にポッドキャスト BG2 で紹介したものだった(原ポッドキャスト)。ポッドキャストにとどまらず、法定の提出書類でも確かめられた。本紙は 7 月 12 日号「NVIDIA の新製品はチップではなく、自社の貸借対照表だ」でこの引き受けを報じた。
照合では、紹介では語られなかった条件が三つ分かった。一つ目は解約の出口である。一方が契約に違反し、30 日の通知を経たとき、相手方は契約を終了できる。一方の破産手続が 90 日たっても取り消されないときも同じである。二つ目に、US$6.3B は注文の初期価値で、購入量の保証ではない。三つ目に、Nvidia の義務は、CoreWeave がサービス提供の条件を満たすことが前提になる。
三つの条件があっても結論は変わらない。Nvidia の買い取り義務がある限り、決算の上では本当の需要と区別できないからだ。中核 2 の H100 賃料は、GPU の需要がまだ弱まっていないことを示している。買い取り義務で需要が見えにくくなっても、需要がすでに弱いとは限らない。ただ、実際に需要が落ちたとき、市場がその落ち込みに気づくのは遅れる。
まだ言えないこと: Nvidia の買い取り義務がすでに発動したかは開示されていない
検証: 8-K の原文と一字一句照らし合わせ、Gurley 氏の紹介と一致した。上の三つの限定は、この照合で原文から分かったものである。義務がすでに発動したかどうかは、Nvidia が関連する偶発債務を開示しない限り分からない。
次に注目するのは三つの変数である。Nvidia が関連する偶発債務を開示するか(開示されれば、買い取りが発動したかどうかを確かめられる)、2032 年までの契約更新の動き、そして SpaceX の書類にあるような、三年契約を 90 日で解約できる条項が、ほかの計算資源の長期契約に広がるかである。
4. [トレンド観察](5〜6 月の素材を補った)Anthropic の黒字化報道、上場申請、懐疑側の読みを一つの時系列に並べた
なぜ重要か: 本紙の推論:フロンティアラボの競争の主戦場は、モデルの能力から資本市場へ移りつつある。根拠は時期で、5 月 23 日の黒字化報道と 6 月 1 日の上場申請が、相次いで表に出た。
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ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は 5 月下旬、Claude を開発する AI ラボ Anthropic が 2026 年第 2 四半期に黒字化し、計画より二年早いと報じた。予想される四半期売上は US$10.9B、営業利益は US$559M である(Exponential View 2026-05-23 の紹介による)。
黒字の幅は薄い。営業利益率に直すと約 5% で(US$559M ÷ US$10.9B、本紙の計算)、黒字への転換ではあっても、大きく稼いでいるわけではない。
報道によれば、Anthropic は 6 月 1 日に非公開で上場を申請した。6 月 6 日には Gary Marcus 氏が、Anthropic が「AI の一時停止を呼びかけた」とするメディアの見出しに異を唱えた(Marcus, 2026-06-06)。Marcus 氏はニューヨーク大学の名誉教授で、認知科学者でもある。長年の AI 懐疑論者でもある。同氏の見方では、Anthropic は実際には開発を続け、取るつもりのない選択肢を示しただけである。同氏はこれを、費用がかからず、上場の時期にぴたりと合わせた言い回しだと評した。
まだ言えないこと: 黒字化の数字は WSJ 一社の報道で、正式な開示はまだない
検証: 黒字化の数字の出どころは WSJ 一社だけで、EV はその紹介である。第 2 四半期は 6 月 30 日に終わり、実際の数字は正式な開示を待つ。Marcus 氏の文章がそう書いていることは確かめられるが、名前のある個人の意見であり、読みが正しいかどうかは別の問題である。
5. [トレンド観察](6 月の素材を補った)懐疑側が出した三つの材料が、投資側の数字とぶつかる
なぜ重要か: 本紙の推論:投資は実額で積み上がる一方で、生成物の価値は見えにくく、どちらの側にもまだ決め手がない。
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Gary Marcus 氏は 6 月 7 日から続けて文章を出し、AI の生成物の量は急増したのに価値が追いついていないという証拠をまとめた(Marcus, 2026-06-07)。
材料の一つ目は生成物の量と価値のずれである。アプリ、書籍、音楽、論文、ウェブページと、分野をまたいで生成物の量はどれも急増した。一方、同じ期間の書籍の実売はわずかに減った(Publishers Weekly の引用)。企業の AI 投資の収益率も低い(MIT や McKinsey などの研究の引用)。
二つ目は数学の証明である。数学者のグループが公開書簡「Leiden 宣言」を出し、AI が作る数学の証明はもっともらしく見えても信頼できず、正しい証明と見分けにくいと警告した。この問題は学術誌の査読の仕組みを揺さぶっている。ニューヨーク・タイムズも 6 月 2 日にこの件を報じた。
三つ目は費用の推計である。推計を出したのは Gerben Wierda 氏である。同氏の経歴は、本号では確かめられていない。同氏は、OpenAI や Anthropic のように AI に自律的にコードを書かせるサービスについて、顧客から US$100 受け取るごとに自社は US$1,000 払っている可能性がある、と推計した。
これに対し、投資側には実額の数字がある。独立した研究機関 Epoch AI の測定では、AI インフラ投資は 2026 年第 1 四半期に米国 GDP の約 0.8% に達した(Epoch, 2026-06-12)。ここでの AI インフラ投資は、データセンターの建設、計算ハードウェア、ネットワーク機器の合計である。測ったのは Epoch 一社で、その基準による。
Marcus 氏自身も、コード生成は唯一の例外かもしれないと認めている。コード生成は、費用が最もかさむ分野でもある。(Wix の件は「目利きの読み」の項で扱う。)
まだ言えないこと: 三つの材料はどれも Marcus 氏経由で、互いの裏付けにならない
検証: 三つの材料の信頼度はそろっていない。Leiden 宣言は実在し、公開書簡に直接リンクでき、主要媒体の報道もある。宣言の内容は Marcus 氏の引用による。Wierda 氏の数字はモデルによる推計で、原文も「可能性がある」の形で書いており、どの企業が開示した数字でもない。三つの材料はどれも Marcus 氏一人の手を経ているので、互いの裏付けにはならない。Epoch の数字は一社の測定である。
次に注目するのは二つの指標である。Epoch の次の四半期の測定で AI インフラ投資の GDP 比が伸び続けるか、そして MIT や McKinsey のような企業の AI 収益率の研究に改善が出るかである。
6. [証拠更新](6 月の出来事、今週まとめた)Anthropic モデルの輸出管理、当局に報告したのは Amazon だったと二つの出典が伝えた
なぜ重要か: 本紙の推論:政府が自らリスクを見つけなくても、最大の投資家の Amazon の通報で規制が動く具体例である。最大の出資者が、同時に規制を動かす側にもなりうる。
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6 月 12 日、米政府はジェイルブレイク(安全対策を回避する手口)が見つかったことを理由に、Anthropic の Fable 5 と Mythos 5 を外国籍の利用者に提供しないよう求め、6 月 30 日にこの措置を解いた。本紙は 7 月 9 日号(第二版の訂正)でこの件を扱った。今週は、報告したのが Amazon だったという情報を補い、記録をまとめ直した。
二つの互いに独立した出典によれば、ジェイルブレイクを見つけて商務省に報告したのは Amazon だった。Amazon は Anthropic の最大の投資家で、主要な販売経路でもある。投資済みの額は US$8B で、さらに US$5B を約束している。
出典の一つは、シリコンバレーの投資家のポッドキャスト All-In の 2026-07-03 の回である。司会の一人 David Sacks 氏は、元ホワイトハウスの AI 政策責任者である。もう一つは Exponential View #578 で、WSJ と The Information を引いている。
まだ言えないこと: Sacks 氏が語る内部の細部は、同氏一人の話である
検証: Amazon が通報者だという点は、互いに独立した二次の出典二つが裏付ける。Sacks 氏は Anthropic に敵対的な立場で知られる。同氏が再構成した内部の細部は同氏一人しか語っておらず、単独ではより慎重に読む。規制は 7 月 14 日の時点で解除されている。
チップと半導体
1. [今週] GPU の賃料の数字は、三つの基準を分けて読む。 今週の新しい数字は、同じ EV #592 にある H100 の即時利用の価格(借りてすぐ使う当日の価格)で、同じ期間に約 10% しか上がっていない。中核 2 の一年契約の指数の +38% を大きく下回る。
以下は今週の新しい出来事ではなく、合わせて読むための枠組みである。同じチップに市場が二つあり、上昇幅は四倍近く違う。契約価格は今後一年の確実さを映し、即時利用の価格は足元の空き容量を映すからだ。三つ目の基準は世代である。H100 は前世代の旗艦で、価格は推論の日常的な需要に支えられている。新世代の旗艦は別の需給曲線にあり、二つを混ぜて読むことはできない。
目利きの読み
1. Wix の CEO、Avishai Abrahami 氏(2026-07-13、ベンチャー投資のインタビュー番組 20VC、聞き手は Harry Stebbings 氏)は、市場が Wix の本業にほとんど価値を付けていないとみる。 Wix はウェブサイト作成ソフトの上場企業である。昨年、当時一人だけだった新興企業 Base44 を US$80M で買収した。Base44 は、作りたいものを平易な言葉で書くと AI がアプリ全体を生成する「バイブコーディング」の製品を作る。Abrahami 氏はインタビューで、Base44 の年換算売上は US$150M を超え、チームは約 400 人だと自ら述べた(20VC, 2026-07-13)。Wix は毎年、フリーキャッシュフロー(年間約 US$400M)の半分、US$200M 超を Base44 に投じる。
同氏が示した計算では、Wix の時価総額は約 US$2.8B、年間売上は約 US$2.1B で、時価総額がほぼ売上と並ぶ。古いソフトウェアのサブスクリプション事業に市場が付ける、悲観的な値付けである。バイブコーディングの同業の評価倍率を当てると、Base44 一社で約 US$8B の価値になる。そうであれば、市場は Wix の本業をゼロ以下に評価していることになる。同業の名前と使った倍率は公表されておらず、照合できない。この評価の比較は自社に有利な計算である。
同氏は、Base44 の粗利率と顧客の継続率が本業より明らかに悪いことも認めた。AI による生成とホスティングの費用が高く、作りかけのアプリが捨てられやすいからだ。同氏は二年以内の改善を見込むが、これは予測であって事実ではない。
本紙が追う判断と照らすと、コード生成は、いま強気と弱気の両方が認める唯一の価値の源だが、単位あたりの採算はまだ証明されていない。中核 5 の Wierda 氏は、供給側の費用から大きな赤字を推計した。Abrahami 氏は、買収した Base44 の粗利率が悪いことを認めたうえで、改善中だと述べる。向きは一致し、程度は食い違う。数字はすべて当事者の自己申告で、監査を経ていない。
研究とモデル
過去 24 時間の学術の走査で新しく入った論文は、下の 1 の 1 本だけである。ほかの 182 本の論文は、次の回で扱う。「今週はほかに大きな新論文がない」というのは、この走査の範囲での話である。
1. [今週の走査] Kimi K2.5 に初めての独立した安全評価が出た。危険な知識を扱う能力は GPT 5.2 と Claude Opus 4.5 に並び、拒否は少ない。 中国の AI 企業 Moonshot のオープンウェイトモデル Kimi K2.5 について、公式ではない第三者の安全評価が初めて出た(arXiv 2604.03121、2026-04 の番号)。要旨の結論は両刃である。化学、生物、核兵器などに関わる危険な知識では、能力はすでに GPT 5.2 と Claude Opus 4.5 に並ぶ。しかし、そうした依頼を拒否する頻度ははっきり少ない。基本的なサイバー攻撃の能力はあるが、最上位の自律攻撃の水準には届いていない。Moonshot は K2.5 の公開時に安全評価を添えておらず、これが最初の評価になる。出典はいまのところこの論文一本で、一つのチームの自己申告である。論文の要旨は定性的で、数字を示していない。著者の一部は本紙の調査システムに関わる研究者だが、そのことで評価を甘くはしない。
本紙の推論:結果が持ちこたえれば、能力が並ぶほど、リスクと競争はガードレールの層に集まる。ガードレールとは、危険な依頼を断る安全対策のことである。閉じたモデルの企業が安全対策を企業向けの売りにしてきた差は薄まり、オープンモデルを使う企業はガードレールを自前で補う費用を予算に組むことになる。米政府が Anthropic のモデルの提供を一時止めさせた件(中核 6)は、政府がこの層に直接介入した例である。
2. [証拠更新] Ethan Mollick 氏が 3 年前に引いた二つの生産性の数字を、元の研究と照らした。 ウォートン校教授の Mollick 氏は 2023 年 5 月の文章で、AI はよくできたソフトウェアではなく、そこそこ有能な人に近いと論じた(原文)。広く引かれた数字が二つある。一つは「文章作成の生産性が 30% 超上がる」で、出典は学術誌 Science に載ったランダム化比較試験である。453 人の被験者で、文章作成の課題時間が約 40% 縮んだ(Noy & Zhang, 2023-07)。
もう一つは「コードを書く速さが 50% 以上上がる」で、出典は GitHub Copilot の実験である。95 人の開発者で、速さが 55.8% 上がった(Peng et al., 2023-02)。どちらも元の研究と一致し、Mollick 氏の紹介はむしろ控えめだった(30% と紹介し、実測は 40%)。限定は二つある。Copilot の研究は、製品の提供元である GitHub と Microsoft 自身が行った。速さの改善幅の信頼区間は 21%~89% と極めて広い。また、二つの数字が測ったのは指定した実験課題の速さで、仕事全体の生産性ではない。全体の生産性が +30%/+50% になる根拠にはならず、標本も小さく、課題の範囲も狭い。
3. [トレンド観察] 全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーが、AI への賭けに初めて反証できる基準を立てた。AI 部門の生産性が 2028 年までに約 2.7 倍に上がらなければ、投資は見合わないという基準である。 査読を経ていないワーキングペーパー(w35290)は、投資のデータから逆算した。米国の大手テック五社の設備投資は 2025 年に US$380B で、2026 年はほぼ倍増の見通しである。この水準の投資が見合うには、AI 部門の生産性が 2028 年までに累計で約 2.7 倍に上がる必要がある。論文の見立てでは、実現しなければ、今回のインフラ投資の波は史上最大の資本配分の誤りになる。2.7 倍は広い意味の AI 部門についての数字で、経済全体の数字ではない。著者の一人でウォートン校教授の Jessica Wachter 氏は、6 月に Marcus 氏に直接この点を説明している。数字はモデルから導いたもので実測ではなく、前提が変われば基準も変わる。それでも「AI はバブルか」という問いに、初めて答え合わせのできる基準が付いた。
プロダクト動向
1. AWS Bedrock:Amazon のクラウドの多モデル基盤。 企業は一つのインターフェースで Anthropic や Meta など複数社の AI モデルにつなぎ、自社のデータを接続し、安全のためのガードレールを加え、自動化の流れを組み立てられる。基盤の層を自前で作る必要はない(製品ページ)。本紙の推論:AWS は基盤を売り、一つのモデルには賭けない戦略をとっている。Bedrock はその中心にある。モデルそのものが汎用品に近づくほど、顧客をつなぎとめて収入を得るのは基盤の層になる。脅かされるのは、企業顧客と直接結びつきたいモデルの開発企業である。Anthropic のモデルは、Bedrock を通じて AWS の企業顧客に届いている。
過去の洞見
1. 「ChatGPT が Google 検索を置き換える」に、初めて行動データの裏付けが出た。アンケートではなく、カードの利用記録である。 大手テック投資ファンドの Coatue は、2025 年 6 月の年次会議で一つの測定を発表した。内容はポッドキャスト BG2 で公開されている(BG2, 2025-06-20)。Coatue は毎日約 1 億件のクレジットカードの利用記録を扱う。ある人が ChatGPT の有料契約を始めた時期と、その人の Google ページ閲覧数をつなげて見た。契約前の Google の閲覧数は年 4% ほどで伸びていたが、契約後は年 8% の減少に転じた。この移り変わりは二年近くかけて少しずつ起きたもので、急な落ち込みではない。測定は一つの機関の独自のもので、外部から方法を再現できず、出典もいまのところこの一つだけである。Coatue は CoreWeave の大株主でもあり、AI の話には利害がある。価値は、検索の置き換えをアンケートではなく消費行動で測った最初の例である点にある。向きは信頼でき、数字は控えめに見る。一年後のいまも、Google の AI 広告の収益化と検索の量をめぐる議論に決着はなく、この測定はその議論で最も早い行動の証拠の一つである。
ソースと棚卸し
過去 24 時間。 昨夜 21:30 からの定例の取得は予定どおり終わった。新しく入った素材は 13 本で、業界ニュースレター 7 本、ポッドキャストの書き起こし 4 本、Stratechery(有料の分析ニュースレター)1 本、学術論文 1 本である。うち 6 本はその夜のうちに読み終えた。X は今回、@paulg(Paul Graham 氏)の投稿 50 件を取得し、オリジナルの投稿 39 件をすべて分析に回した。ほかの 182 本の学術論文は次の回で扱い、本号の「研究とモデル」欄の範囲はこれに従う。別に、深夜の自動処理で 6 月にたまっていた素材をまとめて片づけた(事実の記録 29 件と出典の記録 20 件、元の日付は 2026-05〜07)。これは一度だけの補充で、24 時間の数字には入れていない。本文で引くときは項ごとに元の日付を記した。背景の母数として、今月に入ってからシステムが取り込んだ素材は累計 7,399 本である(学術論文 2,113、ブログ 2,083、ニュースレター 1,049、企業の提出書類 896、その他 1,258)。
本紙が追っているソース。 本紙の判断の土台として、現在 529 の名前の分かる発信者を追っている。X 305 人(Elon Musk、Sam Altman、Andrej Karpathy、Greg Brockman、Demis Hassabis、Jeff Dean など)、ニュースレター 46 本(Dylan Patel、Ben Thompson、Nathan Lambert、Ethan Mollick、Andrew Ng など)、ポッドキャスト 90 人(Satya Nadella、Dario Amodei、Jensen Huang など)、論文の著者 48 人(Noam Shazeer、Percy Liang、Tri Dao など)、個人ブログ 48 人(Simon Willison、Chris Olah、Jason Wei など)、決算と決算説明会 26 社(Jensen Huang、Lisa Su、魏哲家など)、機関のブログ 70 本(Nvidia、Google Research、SemiAnalysis、Hugging Face など)。
本記事は日本語版・英語版・中国語版と同一の調査と判断にもとづいて書かれています。出典にはリンクを付け、原文書と報道を区別し、確かめられなかった点を明記しています。
本紙はニュースのまとめではありません。AI を使って分野横断で一次情報を読み、判断には原文の出典を添え、誤りは訂正ページで公表します。焦点は、どの変化がすでに起きていて、どの主張にまだ裏付けが足りないかであって、今日何が起きたかではありません。
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