深掘り モラトリアムで遅れたのは「2.3GW だけ」——その物差しは遅延を測り、撤退を測らない · 2026年9月24日
SecondSource 深掘りレポート #37
9月15日、半導体・データセンター調査会社の SemiAnalysis が、米国のデータセンター建設モラトリアム(新規申請の一時停止令や禁止条例)を案件ごとに電力容量へ換算した初めての棚卸しを公表した。約300件の地方の停止令に、ニューヨーク州の行政命令を加えても、実際にプロジェクトを遅らせているのは約 2.3GW にとどまる。同社は 2027年に米国で 38GW が新たに稼働すると予測している。GW(ギガワット)は10億ワットで、大型原子炉1基の出力にほぼ相当する。この数字は「建設停止の波が米国の AI インフラを失速させるか」という問いへの答えとして引用され、答えは「させない」だった。本紙は9月16日、この数字は 2026〜27年の稼働については信頼できるが、まだ立地も決まっていない 2028年以降の案件は、この物差しの構造上見えない、と記した。
本稿はこの判断をばらして検証し直した。結論は三層になる。第一に、2026〜27年については 2.3GW は正しい数字であり、低く出るのは必然だ。2027年の 38GW のうち 22GW はすでに建屋の工事に入り、残りも大半が資金調達を終えて造成中である。SemiAnalysis 自身、停止令は着工済みか許認可をそろえた容量には届かないと書き、それが "all of 2026 and most of 2027" に当たるとしている。第二に、本紙の元の判断は死角の向きこそ合っていたが、境界の引き方を誤った。同社のモデルは資金のついていない遠い将来の発表案件も 2028年以降に収録している。本当に見えないのは「2028年以降」という時期ではなく、「プロジェクトの退場」という結末である。同社の選別ルールは、取り消しや撤回となった案件を遅延に数えないと明記している。開発事業者はふつう移転や設計変更で対応するとも書いており、移転した案件は遅延の帳簿上ゼロになる。第三に、撤回を専門に数える別の物差しは、小さくない数字を示している。エネルギー専門メディア Heatmap のデータチームの集計では、今年の最初の3カ月だけで少なくとも20件のデータセンター計画が地元の反対を受けて撤回され、電力需要にして合計少なくとも 3.5GW に達した。同チームは、地元から異議を受けた案件の約半数が最終的に撤回されると見積もっている。
20分を割く価値がある理由:夕刊では「2.3GW 対 38GW」の一文で済ませた話である。本稿はその分母を分解し、比率が低いのは構造上そうなるからだと示す。さらに本紙自身の「2028年以降の数値は構造的に常にゼロ」という一文を実際に検証し、半分は持ちこたえなかったことを確かめた。修正後の死角は「退場」に書き換わる。最後に、どの数字が出れば本稿が誤りになるのかを三つ書き切った。
ここまでしか読まない人へ:次に「停止令で遅れたのは何 GW だけ」という話を見たら、まず撤回や移転の案件を数えているかを問うことだ。遅延量が答えるのは来年の稼働が減るかどうかにすぎない。2028年以降、自社の案件を当初の予定地に建てられるかに答えるのは、撤回量と移転先である。
このテーマの推移図(トレンドツリー)は当サイトにまだないため、本稿に図は付けない。
まず、この数字がどう作られたかを見ておく。SemiAnalysis の手法は、17州に散らばる400件超の地方の停止関連の条例・措置・提案を、同社が追跡する6,000超のデータセンター用地に一つずつ突き合わせるものだ。案件リストは不動産登記、許認可、電力データ、情報公開請求、衛星画像から1施設ずつ作られている。そこから二つの数字を切り分ける。
20GW から 1.5GW への間に、ふるいがある。同社は11の条件を挙げ、そのすべてが同時に成り立って初めて、ある停止令が特定の案件を遅らせたと数える。原文は "If you miss just one of these, the moratorium is irrelevant." である。案件をよく落とす条件をいくつか挙げる。
ある金融サイトは、調査チームが当初77カ所・約 20GW を洗い出し、ふるいにかけた結果3カ所が残ったと伝えている。これは二次的な伝聞で、本稿は元の発言を確認できていない。
手法そのものは堅い。停止令が何件あるかではなく、個々の停止令がどの土地のどの許可を止めたかを問うている。ここが従来の集計との最大の違いだ。これまでの数字は大半が条例の件数で、7月の127件から9月の300件超まで数え上げられてきた。件数はどれだけの地域が反対しているかを示すが、どれだけの電力が止まったかは示さない。
ふるいの仕組みが分かったところで、比率の読み方に移る。当初の読み方では二つの数字を並べていた。遅延が約 2.3GW、2027年の新規稼働が 38GW、したがって停止令の影響は来年の新規分の約6%、という計算だ。この割り算は分けて見る必要がある。分子と分母が同じ種類のものを測っていないからだ。
分母の 38GW は、もともと停止令にほとんど触れない。 SemiAnalysis の原文はこうだ。"Of that total, 22GW is under vertical construction, while the remaining 16GW “planned” is, in majority, already financed, doing siteworks and preparing for vertical construction." 同じ記事で、施工中か許認可をそろえて着工間近の容量は "out of reach altogether" であり、"That covers all of 2026 and most of 2027." とも書く。つまり 2027年の稼働分は、建設停止の波が大規模に広がる前に、停止令が止められる関門をすでに通過していた。比率が低いのは、停止令が噛みつけない年を分母に選んだからである。
分子の 2.3GW には、どの年の稼働分かの印がない。 これは「現時点で遅れている容量」というストックで、2027年の案件も、もっと先の案件も含みうる。ペンシルベニアで止まっているキャンパスは、1棟目を 2026年第4四半期に着工する予定だったが、地元の許可が 2027年にずれ込んだ。複数年にまたがるストックを単年の新規量で割っても、出てくる百分率にははっきりした意味がない。
2.3GW が誤りだと言っているのではない。「2026〜27年の稼働見通しを、建設停止のニュースで割り引くべきか」という問いに対しては、正しい数字だ。ゴールドマン・サックスの5月の予測は 2027年の新規 36.3GW で、数字は近い。ただし同社はこれがサーバー用電力か系統接続容量かを明示しておらず、両者が同じものを測っているかを本紙はまだ確かめていないので、裏付けには使えない。より役に立つのは、同社が同時に示した見積もりのほうだ。今後1〜2年に稼働予定の容量のうち、予定どおり立ち上がるのは5〜6割にとどまり、その原因は遅延と撤回の合計だという。言い換えれば、2027年の本当のリスクは機器の納期、送電網への接続、資金調達にあり、建設停止令はそのごく一部でしかない。来年の稼働について、SemiAnalysis の結論は持ちこたえる。来年より先のことには答えられないだけで、同社自身もそう書いている。
分母の話を片づけたところで、今度はふるいから落ちた側を見る。停止令がある案件にかかったとき、結果は「遅延」だけではない。少なくとも三通りある。
| 結果 | 例 | 2.3GW の物差しでは | 誰が数えているか |
|---|---|---|---|
| 遅延 | ペンシルベニアのキャンパス:許可が 2027年にずれ込んだ | 数に入る | SemiAnalysis |
| 移転・設計変更 | テキサス州ブラウンズビル:市議会が一時停止の手続き開始を議決する3日前に、市と開発事業者が 444 エーカーの土地を市域から外した | 元の用地ではゼロ | 体系的に数えている者はいない |
| 撤回 | 今年第1四半期に少なくとも20件の計画が地元の反対を受けて撤回 | ルール上ゼロ | Heatmap のデータチーム、非営利の追跡団体 Data Center Watch |
「ルール上ゼロ」は本紙の推論ではない。SemiAnalysis が自ら書いた選別条件である。原文は "The developer must still intend to build the affected MW tranche. A cancelled, withdrawn, downsized or otherwise abandoned project should not be counted as moratorium-delayed simply because it sits inside the restricted area." 同じ記事には、停止令が工期を左右する関門であっても、開発事業者は "can usually relocate, redesign, or challenge the project rather than abandon it" とも書かれている。
この二つを並べると、この物差しの境界が見える。測っているのは「まだ生きていて、元の場所にとどまる案件がどれだけ遅れたか」であり、移った案件も消えた案件も帳簿に載らない。 同社が答えようとする問いから見れば、この設計は正しい。同社が予測したいのは全米の稼働量で、移転した案件がよそで建てば全米の総量は減らないのだから、損失として数えるべきではない。ただしそれは、同社が「停止令の影響は小さい」と言うとき、その一部が「移れる」という前提の上に立っていることも意味する。
では撤回はどれくらいあるのか。実はこれを数えている者がいて、数字は小さくない。
二つの物差しの数字は足し合わせられないし、どちらかがもう一方を覆すとも言えない。 単位が違う。Heatmap は電力需要を、SemiAnalysis はサーバー用の電力容量を数えており、同じキャンパスなら前者のほうがふつう大きい。母集団も違う。Heatmap と Data Center Watch が数えているのは計画で、そのかなりの部分は投機的だ。ゴールドマン・サックスは、開発事業者が複数の地域に同時に申請を出し、条件の最もよい一つだけを進めることが多いと率直に書いている。SemiAnalysis も6月、米国の大口需要の系統連系待ちはすでに1,000GW を超え、その大半はきわめて投機的だと述べた。だから撤回された GW は損失の上限であって、損失そのものではない。もともと建たなかったものもあれば、よそで建つものもある。
それでも、二つの物差しをつなぐ対照が一つある。SemiAnalysis によれば、ミシガン州は停止令の件数が全米最多の州(施行済み45件)だが、同社の建設中リストでは、ミシガン州のエクスポージャーは "effectively zero" だという。ここでいうエクスポージャーとは、冒頭の節で見た「停止令の適用範囲に入る容量」のことだ。一方 Heatmap は、ミシガンで異議を受けた計画の71%が最終的に撤回されたとする。本紙の読みでは、この二つの数字は同じ出来事の表と裏である。 ミシガンの反対運動は、大半の案件を計画段階で潰している。だからリストに載り、そのあと停止令で遅れるところまで生き延びる案件がない。遅延量がゼロだからといって、停止令が効いていないことにはならない。効き目が早すぎて、この物差しにはまだ映らないのかもしれない。この段落は、本稿が二つの報告書を並べて導いた推論であり、どちらの報告書もそうは述べていない。
二つの物差しを並べ終えたところで、本紙自身の判断に戻る。9月16日の判断は二つの部分からなっていた。前半は、2.3GW によって「建設停止の波が 2026–27年の稼働を失速させる」という見方は下方修正できる、というもの。分母を分解した節の結論どおり、この半分は持ちこたえる。後半はこうだった。この物差しに見えるのはすでにパイプラインに乗った案件だけで、まだ立地が決まっておらず、したがってどのデータベースにも載っていない 2028年以降の案件は、構造的に常に数値がゼロになる。本紙はこの半分を実際に検証にかけた。結果は、向きは合っていたが境界を誤っていた。
「2028年以降」は、実は死角ではない。 SemiAnalysis は6月の別のレポートで、資金も系統接続の調査もなく、初期の電力見積もりだけで発表された案件について、それらを 2026年の案件のように装うことはせず、モデル上は 2028年以降に置くと書いている。つまり同社のリストには遠い将来の発表案件が含まれ、あの 20GW の停止令エクスポージャーにも 2028年以降の案件が入っている。ふるいの節で見た「稼働予定が 2028年以降で停止令が3〜6カ月なら、期限切れを待って申請すればよい」という条件は、まさにこうした案件を扱うものだ。SemiAnalysis の原文は "shorter moratoriums may expire before 2028+ projects need the affected approval" である。元の判断が自ら書いた一つ目の覆す条件は、「同社が自社モデルに『計画はあるがパイプライン未搭載』の階層を含むことを公表し、かつその階層の数値も低い」だった。前半はすでに成り立った。後半、つまりその階層の数値は、同社が公表していない。
本当の死角は退場であり、この半分は持ちこたえた——しかも厚みを増した。 同社は同じ6月のレポートで、実現確率の低いデータセンターはタイムラインに入れないとも書いている。これにふるいの節で見た「取り消し案件は数えない」というルールを加えると、この物差しに本当に見えないのは四種類の案件になる。確率が低いと判断されて収録されなかったもの、計画後に撤回されたもの、よそへ移ったもの、そして停止令にぶつかると見込んで最初から計画を出さなかったものだ。前の三つは一部をほかの誰か(Heatmap、Data Center Watch)が数えている。四つ目は今日に至るまで何の数値もない。したがって元の判断の中核の文は、「時期」から「結末」へ書き換える必要がある。「遅れたのは 2.3GW だけ」と「元の場所で建てようとする案件が減っている」は同時に真でありうる。前者は後者の反証にならない。
元の判断にはもう一か所、狭めるべき文がある。SemiAnalysis の推計とプリンストン大学の Arvind Narayanan の推計は、完全に独立してはいないからだ。 元の判断は、SemiAnalysis の案件ごとの突き合わせと、Narayanan の「効率向上が止められた計算資源を取り戻す」という換算とは、手法がまったく違うのに向きが一致するので、互いを裏付けるとした。手法が違うのは確かだ。しかし Narayanan の計算式は、止められた容量の9割がよそで建つと明示的に仮定している。SemiAnalysis は移転した案件を遅延ゼロとして記録し、開発事業者はふつう移転すると述べている。両者は最も肝心な仮定で同じもの、つまり「移れる」を共有している。 だから互いに裏付けられるのは算術だけで、その仮定そのものは裏付けられていない。もしいつか移れなくなれば——たとえば同じ地域の隣接する郡が次々に停止令に追随すれば(SemiAnalysis 自身がアトランタ都市圏での連鎖的な追随を記録している)——二つの数値はそろって狂う。
元の判断を直したうえで、先を見るための物差しを並べておく。ここまでの分け方に従えば、停止令の作用は三つの量に分かれ、それぞれに合った物差しがある。
| 答えたい問い | 見るべき数値 | 現在の数値 | 誰が測っているか |
|---|---|---|---|
| 来年の稼働は減るか | 遅延している容量 | 約 2.3GW、うち地方分 1,525MW | SemiAnalysis |
| 元の場所にとどまる案件のうち、どれだけが停止令の範囲内にあるか | 停止令エクスポージャーの容量と、その時間的な推移 | 約 20GW(9月) | SemiAnalysis |
| 反対を受けた案件のうち、どれだけが消えたか | 異議を受けた案件の撤回率(州別) | 約5割、ミシガン71%、テキサス17% | Heatmap |
| 消えた案件のうち、どれだけがよそで生まれ変わったか | 撤回容量の行き先 | 誰も測っていない | — |
最後の問い「消えた案件のうち、どれだけがよそで生まれ変わったか」こそ、本稿がいちばん指摘したい空白であり、データ自体はすでに存在している。SemiAnalysis は停止令データベースで各条例のライフサイクルを "proposed, enacted, expired, lifted, replaced, or rejected" まで追っていると言い、案件リストでも取り消しと撤回を1施設ずつ追跡している。「停止令の範囲内」と「範囲外」の二つの案件群の撤回率を並べるだけで、停止令が案件を殺しているのか、場所を替えさせているだけなのかが分かる。両群の撤回率が同程度なら場所替えにすぎない。範囲内のほうが明らかに高く、全米総量の予測もそれにつれて下方修正されるなら、殺している。この比較に新しいデータは要らない。誰かが切り出せばよいだけだ。
それまでに見えるのは形が変わっていくことであり、どの兆候も「止まる」ではなく「移る」を指している。
「停止令で遅れたのは約 2.3GW だけ」は、2026〜27年の稼働については正しい数字であり、低く出るのは必然だ。2027年の 38GW は建設停止の波の前に、停止令が止められる関門を通過しており、SemiAnalysis 自身が停止令は "all of 2026 and most of 2027" に届かないと明記している。この物差しに見えないのは 2028年以降ではなく、退場である。同社のルールは撤回案件をゼロと記録し、移転した案件を影響なしとして扱う。一方、撤回を専門に数える Heatmap は、今年第1四半期だけで電力需要にして少なくとも 3.5GW の計画撤回を数え、異議を受けた案件の約半数が撤回されるとした。撤回の一部はもともと投機的なので、これは損失の数値ではなく、損失の上限である。停止令の本当の作用は二つの点で見るべきだ。停止令の範囲内と範囲外で撤回率がどれだけ違うか、そして撤回された案件がよそで生まれ変わっているか。今日見える兆候はどれも「止まる」ではなく「移る」を指しているが、どれだけ移ったかを測っている者はいない。同じ地域で停止令への追随が続いて移れなくなれば、遅延量は狂う。止められた容量の9割がよそで建つと仮定したプリンストン大学の Arvind Narayanan の推計も、そろって狂う。
1. SemiAnalysis かほかの追跡者が「停止令の範囲内と範囲外の撤回率」の比較を公表し、両者が近い場合。 それは停止令が案件の場所を替えさせるだけで殺してはいないことを意味する。本稿の「元の場所で建てようとする案件が減っている」という半分はなお成り立つが、「退場が死角だ」という点は全米総量にとっては重要でなくなり、直前の節の表の最後の二つの問いは一つに統合できる。観察期間は 2027年6月30日まで(本紙が独自に設定)。
2. SemiAnalysis の 2028年の米国新規容量予測が同じ観察期間内に1割を超えて下方修正され、同社がその修正を停止令か地元の反対に帰した場合。 それは退場が全米総量で見えるほど大きくなったことを意味し、本稿の「今日見える兆候はどれも移るを指している」は撤回する。この閾値は本紙が独自に設定した。
3. 2027年の米国の実際の稼働量が同社予測の 38GW を明らかに下回り、その差が停止令に帰せられる場合。 分母を分解した節の「来年の稼働について 2.3GW は正しい数字」が誤りになる。答え合わせの日(検証期日)は同社の年間実績に合わせ、暫定で 2028年3月31日とする(本紙が独自に設定)。
本記事は日本語版・英語版・中国語版と同一の調査と判断にもとづいて書かれており、すべての主張は一次資料へのリンクを備えています。